研究
現在行っている研究・これから取り組もうとしている研究
個々の要素が相互作用して全体としての秩序を生み出す自己組織化現象は,自然界や社会システムにおいて広く見られます.私は,数理モデリングを通して自己組織化現象の核となる原理を明らかにし,さらにその原理をもとにさまざまな系 に適用可能な「理にかなった」自律分散制御手法を構築しようとしています.私の研究分野は非常に学際的で,現象数理学・数理生物学・物理学・制御工学・ロボット工学・生物学・医学・社会科学・スポーツ科学などにまたがっています.
生物ロコモーションに内在する自律分散制御則の解明
生物は,予測不能的な環境下において,驚くほど適応的かつレジリアントな振る舞いをリアルタイムに生成します.本研究では,ヘビ,クモヒトデなどのさまざまな生物をモデル生物として採り上げ,行動観察・数理モデリング・シミュレーションやロボット実機実験を通してこれらの生物の実時間適応的なロコモーションに内在する自律分散制御則を明らかにしようとしています.また,明らかにした自律分散数理則を活用して,テンセグリティ車輪などのユニークな構造を持つロボットを駆動する方策も検討しています.
利他行動を示す生物個体群から切り拓くサバイバビリティの高いシステムの設計論
自然界には,各個体があえて不利益を被ることで,群れ全体として厳しい環境下でしぶとく生き延びる生物が多く存在します.たとえば,バクテリアのバイオフィルムでは,餌不足の他の細胞のために餌の摂取を一時的に控えたり[1],他の細胞を生かすためにあえて自死する[2]ことが知られています.また,チスイコウモリは,3日間餌を食べられないと死んでしまいますが,互いに餌を分け与えることで数年間生き延びることができます[3].これらの振る舞いに内在する制御原理を解明し,サバイバビリティの高い人工物の設計論を確立しようとしています.
[1] M. Asally et al., PNAS 109:1889-96 (2012)
[2] J. Liu et al. Nature 523: 550-554 (2015)
[3] G.S. Wilkinson, Nature 308: 181 (1984)
ヘテロ群知能の原理解明
生体を構成する細胞には多様な種類があり、同一種の細胞であっても個々の性質には違いがあります。細胞集団は、このような細胞の個性を活かしつつ、環境に応じた秩序構造を形成して移動し、単一の細胞では実現できないマクロな機能を発揮します。また、カラスやイトミミズの群れなど、動物個体の集団においても個体ごとに個性があり、その個性を活かすことで群れ全体の知的な振る舞いが実現されているように見受けられます。このように、個性を持つ細胞や個体が集まり、集団として発揮する知能を私たちは「ヘテロ群知能」と呼び、そのメカニズムを数理モデリングやシミュレーションを通じて明らかにしようとしています。
「やわらかい」個体の群れに内在する自律分散制御則の解明
従来の群れの研究の多くは,群れの構成要素を質 点や剛体とみなしていましたが,本研究では,柔らかい個体同士が物理的に相互作用することで生み出される群知能の原理を探ります.そこで,細長く柔軟な身体を持つ個体が互いに絡まり合って集団塊を形成し,その形態を状況依存的に変化させながら動き回る,イトミミズという生物に着目します.イトミミズの集団塊が,狭い場所や地面の凹凸がある複雑な実世界環境下でどのような仕組みで適応的に動き回るかを,行動実験・数理モデリング・シミュレーションにより明らかにしようとしています.他にも,クラゲの群れが示す興味深い集団運動にも着目して研究を行っています.
対人スポーツ競技に内在する制御・学習則の解明
対人スポーツ競技では,他者と連携や駆け引きを行う技能と,連携や駆け引きを通して互いに成長し続ける技能が必要とされます.様々なスポーツに共通するこの技能の制御・学習則は未だわかっていません.本研究では,対戦型のeスポーツをはじめとするさまざまな競技を対象に,スポーツ科学・数理科学・ロボティクスの異分野融合により,この謎を解明しようとしています.
交通システム・群ロボット,ドローンの自律分散制御
本研究では、自走機能を持つ複数の移動体(車、ロボット、ドローンなど)の流れを、状況に応じて適切に制御する手法の構築を目指しています。たとえばドローンの場合、近い将来、空を飛び交うドローンの数は飛躍的に増加すると予想されますが、その際、現状の中央集権型制御では対応に限界があります。そこで、本研究では、各機体が周囲の状況に応じて自らの行動を判断できる自律分散制御則を、コウモリ、羊、歩行者などの生物の行動原理から学びながら構築しようとしています。
非自明な社会現象の数理モデリング
人間社会において,社会を構成する一人一人の特性からは想像もつかないような非自明な社会全体の振る舞いが発現することがあります.それらの仕組みをエージェントベースドモデルを用いて明らかにしようとしています.
交友関係の形成過程に着想を得た非対称相互作用モデルに関する研究
非対称相互作用モデルは,人間社会における交友関係の形成過程に着想を得て,遊び心で作ったモデルです.パラメータの値をいろいろ変えてシミュレーションしてみたところ,多種多様なパターンが自己組織的に発現します.詳細はhttps://www.youtube.com/watch?v=1doJowB9yc0をご覧下さい.本研究では,この遊び心で作ったモデルに何の学術的意味があるのかを探求しています.
研究
過去に行っていた研究
密度振動子の流れの転換過程の解明
密度振動子は,底に細い管を取り付けた小さな容器に密度の高い流体を入れ,それを密度の低い流体が入った大きな容器に取り付けると,管を介して流体が振動する現象である.本研究では,流体の粘性率を変化させて流れの転換過程の詳細な測定を行い,得られた実験結果をもとに数理モデルを構築した.その結果,流れの転換過程は1)流体の粘性による転換の抑制効果,2)静水圧勾配による転換の促進効果,3)流体の管面からの剥離による転換のトリガー効果,の3つの要因の拮抗によって説明できることを明らかにした.
Multi-linear feedbackに基づく結合振動子系の制御
リミットサイクル振動子がその相互作用によってリズムを揃える同期現象は,自然界に広く知られた現象である.近年,工学や医学の分野において,このような結合振動子の位相関係を人為的に制御することが必要とされている.本研究では,位相モデルにおける結合関数の関数形をmulti-linear feedbackによって任意に変化させることで振動子の位相関係を制御する手法を提唱し,その妥当性をシミュレーションにより検証した.この手法は個々の振動子の詳細なメカニズムによらず用いることができるため,広範な分野での応用が期待できる.
経済活動を考慮したCOVID-19の流行の数理モデリング
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の流行は,全世界的に猛威を奮っています(2020年8月現在).流行を阻止するためには,大型イベントを自粛する等,人と人との接触をできる限り少なくすることが必要ですが,その一方で自粛により膨大な経済損失が起きてしまうというジレンマが存在します.このジレンマを解消し,経済活動を維持しつつも流行を阻止するための方策を見出すことは,喫緊の課題です.そこで本研究では,上記ジレンマの解消についての議論をするためのプラットフォームになるような数理モデルの構築を行っています.